轟音杖の灯台守と記憶商会

轟音杖の灯台守と記憶商会 第16話「第14章」

ステージの光が夜空を切り裂く。白熱のスポットが波のように群衆を洗い、スクリーンには笑顔のクローズアップが映し出される。歓声の波が港町の空気を震わせ、あちこちで紙吹雪がはじけた。記憶商会のデモンストレーション—「無痛の記憶移行」の祝祭。笑い声と拍手の合間に、低く澄んだ声がマイクを通して流れる。

ステージの光が夜空を切り裂く。白熱のスポットが波のように群衆を洗い、スクリーンには笑顔のクローズアップが映し出される。歓声の波が港町の空気を震わせ、あちこちで紙吹雪がはじけた。記憶商会のデモンストレーション—「無痛の記憶移行」の祝祭。笑い声と拍手の合間に、低く澄んだ声がマイクを通して流れる。

「過去の痛みを、未来への投資に。どうぞ安心して、あなたの重荷をお預けください!」

燈子は屋台の列の背後、海風にさらされた鉄骨の上に半ばしゃがみ込んでいた。手の中の轟音杖は、いつもの冷たさを保ちながら微かに振動している。杖先が掌に伝える振動は、胸の奥にまで届いて、抑えようとする鼓動と同期する。下の会場を覗くと、列に並ぶ人々の顔が映る。笑っている人、力なく笑っている人、目を赤くしている人。リナが列の前の方にいるのが見えた。彼女の肩は震えていて、掌はぎゅっと握られている。並びながらも笑顔を作っている。燈子はそれが「笑顔」というより、何かを遮断するための薄い膜だと直感した。

「燈子、ここにいるのね」

低い声。背後から蓮が来て、濡れたジャケットの袖で顔から落ちた髪をかきあげた。彼の目は鋭い。だが、その瞳の奥には躊躇がある。笑顔を見せる必要がある人間と、それを信じるしかない人間の間で揺れていた。

「リナが列にいる。止められるか?」

蓮の声は震えていなかったが、指先が小刻みに動いた。燈子は杖をぎゅっと握り直す。能力の輪郭が、いつにも増して厳然と浮かぶ。轟音杖は、仲間と共有した作戦を一度だけ実現する道具。仲間たちの同意がなければ「共有」は成立しない。単独で使えば、代償として感覚の一部を失う。合意を無視すれば、効果は味方だけでなく敵にも及ぶ——その呪いのような条件を、燈子は幾度も噛み締めてきた。

「彼女には理由がある。家族の支援費……」
「理由がどうであろうと、ここで彼女を見送るわけにはいかない」

燈子は言いながら、下に目をやった。ステージ上の壇上で、記憶商会の代表、堂島一志が優雅に拍手を煽る。彼の笑顔は計算されていて、放心したような参加者を慈愛で包む演技が上手い。壇上の側面では、作業員が透明なカプセルのようなブースを操作していた。ブースの中では、椅子に座った人が目を閉じ、機械が肩のラインを追うように光を這わせる。映像は美しく編集され、痛みや恐怖の幻は見えない。だが燈子は映像の裏にある実際の列、そこに並ぶ人々の爪が指の肉を食い込ませる描写を見ていた。

「合意、だよな」蓮が言った。「手を挙げて、声を出して、『私はこれを望む』って。俺たちの共有は、そうして始まる。今、三人が同意しないと—」

「三人をここに呼べる?」燈子が問う。彼女は既に杖に意識を向けていた。呼吸を整えると、杖は胸骨に寄り添うように振動を送り返す。手のひらに汗がにじむ。

蓮の視線がラインにいるリナに戻る。リナが係員に促されてブースに向かって歩き出す。彼女の歩みは早い。笑顔がいびつに引きつっている。ステージの歓声を浴びて、群衆はそれを祝福の行進と見なすだろう。だがその微笑みの下にある決定は、燈子には骨が折れるように見えた。

「やるか?」蓮が短く訊く。合意は、今この場で三人が声にして示すこと。過去にもそれをやったことがある。共に声を出した瞬間、杖は計画を現実に押し出す。だがリナは列にいる。もう一人の仲間、航は観衆の中にいるはずだが、スクリーンの光で確認できない。

燈子は下に飛び降りる決心をする寸前で立ち止まった。もしここで杖を単独で使えば、音は彼女の耳を奪う。右耳か左耳か——それは使い手が選べない。代償は必ずやってくる。しかも、合意がないまま作戦を押し通した場合、その作戦の「共有対象」は自分だけではなく、無差別に効果を及ぼす。敵だろうと味方だろうと、同じ波を受ける。

リナの隣に一人、年配の男が並んでいる。彼の掌は震え、目は遠くを見ている。燈子は脳裏に妹の笑顔を重ねた。もう時間がない。

「行くよ」燈子は短く言った。蓮はため息にも似た声を出すと、帽子をかぶり直し、胸の前で小さく拳を握った。航に確認する余地はない。三人目の確認が取れないことを燈子は承知していたが、彼女は杖を引き抜いた。金属の冷たさが爪の先にしみる。手首に伝わる振動はほんの小さな鼓動だったが、それを増幅するために燈子は深く息を吸い込む。

杖の側面に指が触れ、燈子は声を出した。「共有、灯台班。合意の代わりに、私が——」

言い切る前に、轟音が生まれた。低い、海の奥から立ち上るような音。始まりは皮膚の裏で、次に胸腔を振るわせ、やがて耳を満たしていった。燈子の世界は一瞬、音で満たされ、次の瞬間には一部が消えた。右耳から高音が溶け落ち、世界は左側からしか来ない。風の音が偏り、群衆の喧騒はやけに遠く感じられる。痛みはなかった。ただ、ある帯域が向こう側に落ちた。唇の端で言いようのない空白を味わった。

「っ……!」

蓮が駆け寄るが、その声は遠い。彼の唇の動きは見える。燈子は指先で自分の右耳を触る。温かい血の匂い。代償は来た——しかし同時に、杖が放った音は会場全体を包み込んだ。波紋は光と音の形を借りて空気を切り裂き、見せかけの祝祭をむき出しにした。

ブースから立ち上がる人たちの顔色が変わる。機械の表示が一瞬フリーズし、スクリーンの映像が歪む。参加者の内側に籠もっていた断片的な記憶が突然、外に溢れ出したかのように風景が変わる。壇上の堂島が、驚愕の表情でマイクを押さえた。何かが会場全体に“共有”されてしまった。燈子が意図したのは、群衆の注意を指定した逃げ道へ誘導することだった。杖はそれを実現したが、同時に「同意のなさ」を埋める形で作動したため、効果は宴の主催者にも等しく及んだ。

堂島の目に、何か別の人の記憶が差し込まれた。燈子にはそれがはっきり見えた——壇上の彼が、幼い女の子の手を離してしまった記憶。子どもの泣き顔。よそよそしい病院の廊下。堂島は我を忘れたように膝を折れ伏し、マイクを落とした。会場の映像はそれを追い、スクリーンの笑顔はひび割れを起こす。

「な、何を……!」

係員がパニックになり、群衆の一部がざわつく。だが同時に、列に並んでいた人たちの中から自発的にブースから離れ、互いに抱き合う者が現れた。リナは膝をつき、頬を濡らしている。手のひらで自分の胸を押さえ、ぐっと息を吸った。彼女の瞳は、さっきまでの虚勢を捨てて、はっきりと燈子の方を向いた。

「ごめん……行かない、わたし。行かないよ、燈子」

声はか細く、それでいて確固たる合図だった。蓮は急いでリナの隣に付き、手を取る。その選択は自主的だった——強制ではない。だが他の者は違った。高齢の男は膝を抜かれたように倒れ、思い出の重みで泣き崩れた。若い夫婦は、互いの顔を見てから、ためらいなくブースを離れた。会場は混沌の真っただ中にいたが、その混沌は一瞬にして演出の偽りを暴いた。

燈子は耳の片側が沈んだ世界で、混乱の中心に立つ自分を見下ろした。代償ははっきりと届いている。音が欠けた分、足元の波が鋭くなり、足音の区別がつかない。だが効果は厳然として存在した——そして、それは敵である堂島にも等しく作用した。燈子は理性の一部が氷るのを