砂鉄翼の探索者と群体王

砂鉄翼の探索者と群体王 第25話「第23章」

鉄板の上で、砂が羽のように震えた。

鉄板の上で、砂が羽のように震えた。

「早く、時間がない!」タケルの声が割れる。彼の手は泥だらけのバケツの柄を握りしめ、指先の爪の間に砂鉄の粉が黒く溜まっている。風下からは群体王の小型監視ドローンが群れを成して飛来し、金属と静電気の匂いが混ざった冷たい空気を運んできた。避難所の人影が固まる。子どもたちのすすり泣いはじまり、誰かが祈るように糸のように声を出す。

リナは、まだ温かい掌で砂鉄の束を抱えていた。砂鉄翼。彼女が背中を撫でると、粒子は磁光のように集まって細い羽根を紡ぎ、夜明け前の薄青を吸い取るように黒く光った。動くたびに、布の擦れる音とは違う、金属がこすれる小さな連打音が耳に届く。羽根の端が空気を切るたびに冷たさが首筋に走る。彼女の胸の鼓動は、自分で押すと破裂しそうな程に速い。

「範囲と時間はどうする?」ミヤが顔を上げる。彼女のまなざしは避難民たちに向き、眉がきつく寄っている。ミヤは冷静だが、今は誰よりもこの場の倫理を考えている。誰が何を選べるかを奪わないために、この能力は必ず共有の同意に基づかなければならない。誰のための力か、という問いが彼女の口にある。

「一分でも、二分でも。可能な限り短く」カズマが言う。腕に包帯を巻き直しながら、彼は震える声で続けた。「開けるべき通路を限定して、外の隊列と連携する。みんなで同じ手順を踏むんだ。リナ、一度しか使えないんだろ?」

リナは頷いた。能力は一度きりであること、そして仲間の合意を無視したときには予期しない作用を起こすこと——それを彼女は骨身に染みて知っている。使うことが救いを作る一方で、手続きを踏まなければ別の誰かの意志を奪う刃になる。だからこそ、みんなで選ぶ必要があった。

「でも時間が……」タケルが食い下がる。彼の視線はドローンに向いたまま、舌打ちが一つ零れた。「同意なんか待ってられない。奪われるのは命だ。リナ、ここで強行してくれ。俺はお前を信じる。」

その言葉は救いだった。だが同時に、底無しの誘惑でもあった。タケルの信頼は力を放つための引き金になる。リナの指先が羽の根元に触れる。磁力が微かに唸り、砂粒が指先に吸い付いた。彼女の喉が焼けるように渇いた。

「済まない」彼女は小声で言った。タケルの目を見れば、彼の決意がひび割れのように揺れている。リナは、仲間たちの顔を一つずつなぞった。ミヤの額の青い血管、カズマの固い顎。避難民の中には、小さな手を差し出している老人や、ひどく怯えた表情の母親がいる。彼らの瞳が、彼女に選択を委ねている。

「投票しよう」ミヤが決めたように言って、手元の白布を裂いて小さな札を作る。避難民たちに札を配り始める。彼女の声は静かだが、確かな指揮だ。人々はお互いに視線を合わせ、震える指で札を握る。リナはその動きを呼吸で数え、必要な多数が集まるかを確かめる。

だが、投票が終わる前に、タケルが前に出た。彼の表情は変わっていた。顔に泥が付いたまま、彼はリナの前に立ち、無言で手を差し出した。そこには、もう言葉はいらないという決意だけがあった。「ここまで来て誰かを見殺しにできない。リナ、頼む」

リナの指先が、いつもより強く震えた。合意を得るという手順を待たずに発動する――それは許されるのか。頭の奥底で、古い記憶が警鐘を鳴らす。もし無理やり始めれば、能力は味方と敵を区別せずに動くことがある。敵にも作用する、場合によっては彼らの選択をもねじ曲げる。リナはその映像を思い出す:軍人の顔が無表情に固まり、意志の灯が消えた瞬間。彼女はそれを繰り返したくはなかった。

「ダメだ」ミヤが叫んだ。彼女はタケルを押し戻し、札を持つ手を高く上げる。「リナ、私たちみんなで決める。誰かの命を救うために誰かの意思を奪うことは、救いにはならない!」

タケルは唇を噛み、そして手を下ろした。札の束がカサカサと音を立てる。リナは深呼吸をして、意を決する。—待つ。みんなの声を聞く。彼女はその瞬間、砂鉄翼の重さを感じた。羽根は微弱に振動し、まるで眠っている者が目を覚ますような音を出した。

「範囲:ここから北東の搬出口まで。時間:九十秒。行動:円形に手をつないで一列移動を作る。合意する人は手を上げて」ミヤの指示に、避難民たちが手を上げる。子どもも、大人も、震えた手で。カズマは時計を見ながらカウントを始める。十、九、八——数が進むにつれて、緊張は切迫から冷静へと変わる。

リナは指先で砂鉄を撫で、声にならない祈りを送った。「いくよ」彼女は言った。羽根が一斉に羽ばたき、微かな磁場が広がる。空気が引き締まる。砂鉄が織り成す光の輪が地面に描かれ、中心から黒い円が輝いた。金属の匂いが濃くなり、反射する光が雨のように目に入る。

そのとき――。

視界の中心がふっと白く滲み、色が剥がれるように消えた。リナは叫びを上げ、手を押さえて足を踏ん張った。目の前の赤い布が急に灰色になった。色が、形が、何か重要な情報を失った感覚が腹の底を凍らせた。代償が、身体から剥がれるようにやってきた。砂鉄の羽根が一瞬だけ鋭い痛みを齎すように胸を突いた。

「リナ!」タケルが叫んで彼女を支えた。ミヤがすぐ脇に駆け寄り、額に手を当てた。「右目は大丈夫? 見えてる?」

リナは視界を確かめる。中心の視界の一部が白く痩せて、色を失っている。距離感が狂う。手元の札の文字はぎりぎり読めるが、色を頼りにしていた世界の一部が無になったようだった。胸の奥が冷たくなる。代償は現実だった。

同時に、空気の振動が変わった。砂鉄の輪が一瞬しゃがれ声のような低音を吐き、辺りのドローンの一機がスパークを上げて墜落した。群体王側の小隊の一人が、急に体を縛られたように固まり、腕を空中でこわばらせた。電子の唸りと共に、彼の意志が外側から引かれるのをリナは感じた。もし合意を無視していたら、その「引き」は敵にも全面的に及んでいただろう。

タケルの顔が蒼白になった。彼は唇を震わせて言った。「や、やっぱり……」

ミヤは瞬間を逃さず、投票の札を確認する。人数は多数に達していた。合意は成立している。砂鉄の輪はそれに従い、拘束を解いたように見えた。固まっていた男はゆっくりと膝を折り、息を乱す。彼の顔に戻ったのは、ぞっとするほど薄い安堵だった。リナはその表情を見て、胸が締め付けられた。能力が敵にも作用する可能性は、彼らの意思を奪う危険性を孕んでいる。だからこそ合意が絶対に必要なのだ。

九十秒。カズマが喉を鳴らして叫ぶ。砂鉄の輪は、輪の内側にいた人々の腕を柔らかく結びつけ、同時に彼らの筋肉の動きを緩やかに調整した。動かされるのではない。あくまで「共有した作戦」の範囲内で、意思が合わせられていく感覚だ。リナはそれを触覚として知覚した。全員の血流の律動、呼吸が共振するように手に伝わってくる。

歓声とも叫びともつかない声が上がる。列は滑るように動き、狭い通路が即座にパスとして形成された。砂鉄の羽が導線のように人々の間を走り、肩をそっと引いて方向を与える。母親が子どもを抱き寄せ、老人が杖を前に踏み出す。皆が同じ一つの意図で動いているのだと、リナは震えながら思った。

だが成功の余韻は短かった。輪が解ける直前、砂鉄の一筋が地面を伝って伸び、避