骨に歌う孤児は最後の村を守る

骨に歌う孤児は最後の村を守る 第19話「第17章」

朝の光はまだ低く、広場の石畳には薄い霧が残っていた。屋根の端から落ちる水滴が一定のリズムで地面を打ち、裸足の子どもたちがそれを追いかけて歓声をあげる。しかしその音はすぐに、集まった人々の低いうめきで消された。軍服ではない、だが統御院に縫いとめられたような無表情の男たち──噂を運んだ者たちが見せた「再選択」の話を聞いて、村人たちは顔色を失っていた。

朝の光はまだ低く、広場の石畳には薄い霧が残っていた。屋根の端から落ちる水滴が一定のリズムで地面を打ち、裸足の子どもたちがそれを追いかけて歓声をあげる。しかしその音はすぐに、集まった人々の低いうめきで消された。軍服ではない、だが統御院に縫いとめられたような無表情の男たち──噂を運んだ者たちが見せた「再選択」の話を聞いて、村人たちは顔色を失っていた。

レンは木箱の上に立っていた。彼の手の中には、色の抜けた長い骨がある。骨の表面には小さな亀裂が入り、そこから薄い蒼白の光が時折漏れた。証骨。彼はそれを「鳴らす」ことを覚えたが、毎回何かを奪われる感覚も知っている。今朝、別の村で「再選択」が行われた映像が届き、レンはそれを広場で見せることを決めた。

「聞いてください。見て、そして話してください。私一人の声で終わらせたくない」

彼の声は震えていたが、骨の冷たさが掌に伝わると、音はすっと鎮まった。レンが指で骨に触れると、骨の内部から低い音が流れ出した。歌というよりは、割れたレコードが吐き出す断片のようなもの──小さな声が何度も重なり、少しずつ形になる。骨が歌うと、空気の中に薄い幻影が立ち昇った。映像とは言いきれない、匂いと声の層が重なったものだった。

最初に現れたのは、泥のような床の上に座らされた老女の手だった。白い手首に紐が結ばれ、紐先には朱肉の跡。老女は何度も名前を呼ばれ、それが正しいかどうかを問われていた。声がずれて、別の光景へと流れる。若い母親が子供の頬を撫で、伏せた眼差しで祈る姿。兵士の列が整然と人々を押し込め、表情のない記録係が黒い帳面に鉛筆を走らせる。どの場面も「選ぶ」ことを強要されていた。選ばれた者は、薄い布袋に包まれて連れ出された。選ばれない者は、一列に並ばされて数を数えられた。その数え方が、広場にいる誰もの心臓を締め付けた。

「見えるか? ここで、これが行われている」

レンの言葉に、広場の人々は押し黙った。声を上げる者、目を伏せる者、手で口を押さえる者。ある若者が顔を赤らめ、吐くように言った。「あの布袋の中に入れて、何が……」

「何をしたかは、証骨が歌っている。あなたたちに見せるのは事実だ。話し合うための材料だ」レンはそう言ったが、胸の奥に冷たい痛みが走った。骨が情報を吐き出すたびに、レンの中で一つ、名前が薄れていくのを感じる。朝食の匂い、古い土間の板の痩せた節、子犬の耳。指先でそれらをつかもうとすると、すぐ指の間から砂がこぼれるように消えた。

「れ、レンさん、大丈夫か?」隣でセラが手を伸ばす。薄い灰色のマントを着た彼女は、村の簡易診療所で傷を手当てする。彼女の指先は冷たく、レンの掌の骨をそっと支えた。セラの声は低く、だが確かだった。「一つずつでいい。全部を同時に持つ必要はないわ」

レンは何とか笑おうとした。笑顔の形は残っているが、目に映るものの意味が霞んでいた。「ありがとう。でも、今は一緒に見せないと。あいつらは見せしめを作っている。隣の村で何が起きたかを、ここで黙っていれば、次はここに来る」

その言葉に、広場の空気が一瞬鋭くなる。どこからともなく、小さな声が上がった。「証拠を見せてくれるのか」「でも、統御院は報復する」「あの男たちが来たらどうする」それぞれの恐れと算段が重なった。

レンは骨にもう一度触れた。次に出てきた断片は、公式記録のようなものだった。板張りの部屋、黒い長椅子に座る中年の男。床に置かれた木箱の蓋に、同じ紋様が焼き印のように押されている。紋様は渦巻く線と、四つの点が対称に並ぶ意匠──統御院の章だと誰もが知る紋章に似ていたが、どこか変形している。映像は一瞬で切れ、次の声が流れる。

「……彼らは、選ぶことで秩序を保つと言っている。だが、秩序とは何だ。秩序は選ばれた者のためにあるのか、選ばれなかった者のためにあるのか」

広場の中で、オガが前に出た。年長で、かつて村の境を守ったことのある人だ。彼は丈夫な肩に粗い革のベストを羽織り、眉間に深い皺を刻んでいる。オガは小さな木箱を持ってきて、それを開けた。中には、レンが見せたものと同じ材質の小さな灰色の破片が入っている。それは、この村の鐘堂の片隅で昔、彼が見つけたものだと告げる。刻まれた模様を借りて、オガは証骨の映像で見た紋様と並べた。

「同じ刻印だ」と誰かが呟いた。目が回るような瞬間、広場の空気が硬くなる。あの紋様が、外側の制度だけでなく、この村のどこかに刻まれていたということ。統御院は遠くにある存在ではなく、村と何らかの形で結びついていたのかもしれない。

「私たちだけで決める」と、若い母親が声を張った。目は赤い。彼女は子どもを抱き、震えながらも姿勢を正した。「あの村の人たちは、誰かが代わりに選んでくれることを待っていた。私は待ちたくない。ここで、皆で決めたい」

集まった人々の視線がその母親に注がれる。息の詰まる沈黙の後、少しずつ手が挙がる。賛成もあれば、怖くて動けない手もある。レンは胸がつぶれる思いを覚えた。声を上げた者がいる。それだけで、こわばっていた何かが少し弾む。

「フォーラムを作ろう」とレンは言った。「この広場で、名前を持つ人たちが自分の選択について話す場を。誰かが強制しない。証言を出して、互いに聞く。集団で決める。統御院のやり方に対抗する術は、必ずしも武力だけじゃない」

セラが小さく頷き、オガは素早く指を差した。「警護は俺たちがする。だが、レン、無理はするなよ。証骨を鳴らすたびに――」

レンはその半分を理解していた。証骨は真実を束ねる力を持つ代わりに、彼自身の記憶を削る。それがどれほど残酷かを、彼は身をもって知っている。骨の歌は、他者の痛みとともに自分の過去を喰らう。更にもっと悪いのは、救済を強制する行為が呪いを増幅させるということだ。強制的に誰かの苦しみを終わらせようとすると、証骨は歓喜したように濁り、帰ってその殻が深く黒ずむ。結果、呪いは広がり、味方すら代償を負わせる。

広場の端で、ティナという名の高校のような年齢の女の子が無言で立っていた。彼女はいつも小さな手鏡を持っていて、鏡の裏に刺繍された模様を隠す癖があった。今、ティナは手を差し出し、その鏡を広場に向けて見せた。鏡の裏に縫われている糸は、レンが骨で見せた紋様と同じ配列をなしていた。誰かがそれを見て声を上げる。

「私の母さんが、昨夜来た巡回員にこれを渡してしまった。彼らは土地を巡って、そういうものを集めていくと言っていた。統御院は長いことここに手を伸ばしていたのかもしれない」

その言葉が落ちる。小さな波紋が広がるように、村の記憶と証骨の映像が重なった。レンの胸に、新しい恐怖が湧いた。もし統御院の力の源が、証骨と似た「証言の集積」であるならば、彼の力は敵と同じ根を持っていることになる。真実を武器にする代わりに、同じ仕組みに飲み込まれる可能性がある──それは今まで誰も言わなかった、見たくなかったことだ。

レンは深呼吸をした。顎のあたりで何かが消えた気がした。幼い頃、誰かに呼ばれた名前が、風に乗って消えるように遠のく。思い出をつかむために歯を食いしばると、痛みが走った。記憶が一つ、引き抜かれていくのを体で感じる。だが