影を売る修道女は赦しを拒まない

影を売る修道女は赦しを拒まない 第13話「第12章」

大聖堂の石床は朝の雨を吸って冷たかった。ステンドグラスが斜めの光を紡ぎ、色硝子の破片のような影が列席者の顔に落ちる。ざわめきが祈壇の前で止まり、重さを帯びて沈黙になった。イレナは祭壇の縁に片手を置き、もう片方の手で小さな黒い包みを確かめた。包みは柔らかく、でも冷たかった。中には彼女がこれまで集めた「証言の影」が縫い合わされている。指先に感じるのは紙とも布とも違う、息づく暗さだ。

大聖堂の石床は朝の雨を吸って冷たかった。ステンドグラスが斜めの光を紡ぎ、色硝子の破片のような影が列席者の顔に落ちる。ざわめきが祈壇の前で止まり、重さを帯びて沈黙になった。イレナは祭壇の縁に片手を置き、もう片方の手で小さな黒い包みを確かめた。包みは柔らかく、でも冷たかった。中には彼女がこれまで集めた「証言の影」が縫い合わされている。指先に感じるのは紙とも布とも違う、息づく暗さだ。

「イレナ修道女。」側近の声が低く震えた。トマスが下がって後ろの方に立ち、マーラは胸を張って列の中にいた。王府の使者、セロン判事は軍装の幕を翻し、前に座る長いテーブルの上に法令案を広げている。会場の端には銃床の木と布の匂いが渦を作っていた。

イレナは口を開いた。声はいつになく小さく、それでも石の屋根に反射して通った。

「これは誰かを裁くための証拠ではありません。赦しを余儀なくするための道具でもありません。ただ、起きたことを、当事者たちが自分の目で確認できるようにするものです。」

彼女が包みをほどくと、黒い布の裂け目からひとつの影が滑り出した。影は絹の帯のように空気を裂いて、聴衆の上を漂った。さざめきが一瞬で吸い取られる。影が触れた場所だけ、床に別の時間の映像が薄く映り込む──泥だらけの靴、油の匂い、手を震わせて握る小さな手。誰かの叫び、助けを求める声。それは「見せる」ことだった。彼女の能力は、複数の証言の残像を紡ぎ、誰のものでもあるかを示す。「影を売る」ことは、彼女がそれを代行して見せる行為でもあった。

だが代償は、すぐに空気に混じってくる。イレナが次の影を寿ぐように引き出すと、胸の奥からひとつの記憶が、簡潔に切り取られるように消えた。きっかけはわからない。笑い声が遠ざかる。彼女は自分の手元にあった幼い日の絵の具の匂いを思い出せなくなった。指先にあったその温度を探して、手が震ぶいた。

「使うたびに忘れていくのか!」セロンの声が尖る。「そんな代物を民衆に晒すのは危険だ。王府の保護がなければ、混乱しか生まれない!」

「保護ではなく、選択を。」イレナは遮るように言った。「いまここで、私が一方的に『赦し』を与えるつもりはありません。赦しは強制されるべきではなく、誰もが自分で選ぶべきです。私が代わって決めれば、呪いは増幅する──私が救済を強制すると、影はより深く人を締めつける。だから私は、影を売るのです。影を持つのはあなたたち。使い方を選ぶのはあなたたちです。」

空気に柔らかな不安と期待が混じる。大聖堂の窓ガラスの向こうで、風が枝を揺らし、低いノックのような音が響いた。イレナは一つずつ、影を前に来ている人々に差し出した。ある者は手を震わせて受け取り、ある者は顔をしかめて拒んだ。マーラは一瞬ためらったが、拳を固く握りしめて前に出た。彼女の目は燃えていた。

「私が持つ。」マーラは低く、確定した声で言った。「私の罪を、私が背負う。王府の言うように私が管理されたくはないが、管理するのは私たちだ。私はそれを売りに出す。」

高く掲げられた影は、まるで生きているかのようにマーラの手のひらにまとわりつき、冷たい径路を彼女の肌に刻んだ。彼女の顔に一瞬の真剣な痛みが走り、次いで堪えるように息をついた。マーラの選択は、周囲を震わせるに足るものだった。隣にいた年配の女――アーシャはゆっくりと影を受け取り、ほほえんだ。笑いではない、理解の笑みだ。

だがその瞬間、軍の先頭に立っていた将校が前に出て、銀の徽章を掲げた。彼は硬い声で命令した。「討論はここまでだ。王府は法の手続きを中断されぬことを望む。影は国有とする。」

座席がざわついた。誰かがすすり泣った。トマスがイレナの側に来て、手を取った。彼の手は熱かった。

「聖域を武力で壊すつもりか。」トマスは静かに言ったが、その静けさには刃があった。

将校が前に踏み出し、兵士たちが脇に集まる。空気が引き締まる。イレナは包みをぎゅっと抱えた。脳裡にかすかな欠落が増しているのを感じた。名刺代わりの古い歌の一節がふっと消え、彼女はそれが何だったのかを知る前に忘れてしまった。

「争いは望まない。」イレナは言った。「だが、あなたたちが武力で人々の選択を奪うなら、私が最後の手段を使います。私の記憶を代価に、ここにいるすべての者に、影の中の事実を永遠に見せ続ける装置を作る。」

それは公然たる脅しだった。セロンがにやりと笑ってみせる。だが将校は躊躇した。民衆がもう一度ざわめき、半数が立ち上がってそれを止めようとした。イレナの提案は、同意でも反対でもなく、責任を押し付けることを拒む選択を人々に与えたのだ。

トマスが首を振った。「やめてください、イレナ。あなたはもう十分に払った──」

「いいえ。」彼女の声にはもう震えがなかった。ただ、重たい決意が乗っている。彼女はゆっくりと包みの残りをほどき、最後の影を取り出した。今までの影とは違った。これはより厚く、中心に小さな輝きが宿っていた。それは彼女自身の記憶を織り込んだものだった。イレナはその輝きを見つめ、誰かの顔を思い出そうとした。だがそこにあるのは空虚な輪郭だけだった。名前が指の間からこぼれ落ちる感覚。寂しさが胸を締めつける。

「これが私の一部です。」イレナは言った。「もし皆が望むなら、これをここに捧げます。私の忘却を、あなたたちの選択を守るための道具に変える。」

マーラが、トマスが、アーシャが彼女を見つめる。マーラは一歩前に出て、イレナの手から影を受け取ろうとした。そのとき、祈壇の角の暗がりで何かが動いた。空気が一瞬、金属的な味を帯びる。誰かが声を上げる間もなく、影はマーラの手をすり抜けて天井に跳ね、藍色の筋となって伸びた。伸びた先で、その影は反転し、真鍮の像の影に吸い込まれる。像は古い王の形をしていた。そこに埋め込まれた紋章が、細い光をほとばしらせる。

「なに——」セロンの口が開いた。将校が剣の柄に手を掛ける。だが影は既に動いていた。像から放たれた影は、祈壇の正面に座る王府の一人の胸元で震えを止めた。そこに明滅する輪郭が浮かんだ。輪郭は、古い署名のように見えるが、誰のものかは誰も即座に気付けなかった。

影は囁いた。声は耳元ではなく、会場の中で共鳴した。「我が名はルクサ。誓約が回帰する。」

その言葉は針のように、静まり返った聴衆の背筋を刺した。アーシャの手から落ちた影が床の上でくねり、王府側の席へと寄せられる。誰かが倒れる。セロンの顔が真っ青になり、将校がその場で固まった。王府の一人が立ち上がり、顔を青ざめさせて口を覆った。

「ルクサ……?」トマスが呟く。耳慣れない古語が、イレナの胸にも何かを響かせた。それは記憶の断片ではなく、根のように古い恐怖だった。

イレナはひどく寒くなった。ルクサという名前に、自分の一部が反応しているのを感じる。しかし、彼女はその語の意味を思い出せない。そこにあったはずの歴史の一節、過去の儀式、誰かが影を編んだ夜の温度が、指の先からすべて滑り落ちていた。

マーラが身体を翻し、王府席へと走った。彼女は影を掴もうとしたが、影は彼女の手をすり抜けたまま、ある人物の胸で停まった。停まった相手は、王府の末端に見える若い