聖女薬店

聖女薬店 第12話「第11章」

「見つける。必ず、マルコを見つける」

「見つける。必ず、マルコを見つける」

足裏に伝わる湿った板の感触と、古い木箱を擦る金属の音──夜の倉庫は、港に残る鼾のような低鳴りだけが支配していた。イレナが頷き、セルヴァンが入口を押さえる。私は灯りを杖代わりにして、鼻先ににおう薬草とアルコールの匂いを辿った。誰かがここで、薬を、何かを触れて、分析している。マルコが連れ去られた理由は、それだけで十分だった。

「そこだ」イレナの囁きに合わせて、薄暗がりの中で小さな人影が崩れ落ちているのが見えた。座り込んだ背中、細い体、誰よりも小さな首元に、欠けた革の首輪――マルコだ。束縛の跡は浅かったが、顔色は鉛色で、呼吸は浅く、口の端からは白い泡がにじんでいた。風枯れの後期症状に似ている。だが彼の額には、小さな円状の瘢痕が幾つも並んでいて、それが何かを吸い取った跡のようにも見えた。

「手が動くか」私が声をかけると、マルコは目を薄く開け、こちらを見た。瞳の奥にある慌てた色はすぐに消えて、私が知るあの臆病さと決意が戻ってきた。

「リリア……助けに来てくれたのか?」

「来たよ。大丈夫。イレナ、すぐに縛りを解いて」私の手は震えていない。手が震えないことが、私の冷凍保存された感情の証だった。右腕の外側に、薄い白い瘢痕が波紋のように広がり始めているのを、指先の端で感じた。使うたびに広がる。いつかそれが腕全体を覆うのだということを、私は理屈でしか怖がっていなかった。

縛りを解かれたマルコを慎重に抱き起こし、私は倉庫の中央にある作業台に急ぎ寄った。そこには瓶やフラスコ、秤、そして私が前に見たことのある小さな円盤──生体組織の反応を測る装置が並んでいた。装置の横に、赤い小瓶が一つ。蓋は金属で、表面は擦れてまだ光を残している。私が市場で拾ったあの小瓶に似ていたが、ここにあるのは同じとは言えない。ラベルの跡に、かすれた文字があった。「痕跡保存A」。その周囲には、複数の小皿に薄く延ばされた皮膚片、乾いた血液の斑点、そして小さなメモが散らばっている。

マルコは肩越しにそれを見て、小さく震えた。「あれを、見たことがある……」

「今は逃げることを考えよう」私は言った。だが、マルコの脈は速く、体温は低め。ここで放置すれば持たない。倉庫の者たちは何らかの実験をしていた。必要なのは、応急処置と、状態が崩れるのを抑える適切な処置だ。だが今の状況では、普通の包帯と温罨法で十分かどうか怪しい。あの倉庫にあった保存因子と、マルコの損耗した体組織の関係を私の「調合視(ちょうごうし)」で観察する必要がある。

手順はいつも通りだ。条件に従わなくてはいけない。患者と原料に同時に触れ、書面に三項を書き、必要なら何度でも繰り返す。ただし、劇的な完成調合は一日一度だけ。私は今回はその「完成」には頼らない。安定化という小さな処置で済ませるつもりだ。だが、どんな使い方でも、代償は払わされる。

私は机の端にあった破れた紙切れを取り、素早く書き込んだ。成分、温度、時間。文字を書く指が震える。いまの私にとって、書面で三項を明記する行為は、単なる儀礼ではなく、秩序を保つための最低限の確認だった。

成分:乾燥したセイヨウ柳樹皮抽出液 5滴/保存因子(赤)0.5滴
温度:人肌より少し高め、約38℃(局所温罨)
時間:30分(外用パック、15分ごとに圧迫の解除)

書いた紙切れを折り、右手の指で押さえた。その紙切れと、マルコの手首──彼が私の目の前に差し出す弱々しい手首──と、抽出液を小さなスポイトから三本指で挟んだ。患者と原料に同時に触れる。これで発動する。私は深呼吸を一つして、目を閉じた。

調合視は、触れた瞬間に世界を別の層へと翻す。見えるのは化学のフローライン。血液の流れ、細胞膜の振動、保存因子の分子が放つ小さな光の波紋。柳樹皮抽出液の成分は、抗炎症性と微弱なミネラル補給を示す青い糸を放ち、赤の保存因子はその糸を結ぶように波形を変える。私は視覚の中で、どの分子がどの膜を通過し、どの温度で最も効率良く結合するかを読み取る。その情報を、手元の紙に書かれた三項に照らし合わせて補正する。15分後に軽く圧迫を入れる、と私は書き加えた。

だが、視界が裂けるその瞬間、私は別の感覚に襲われた。誰かの記憶の断片が、手の届く場所からすっと剥がれる。私の頭を占めていた、昨夜マルコと交わしたはずの言葉──その言葉の一節が欠けた。どんな言葉だったか、私は思い出そうとしたが、手元にあるのは湿ったペーパーと、書きかけの処方だけだった。代償は働いた。使用ごとに直近の一日の記憶の断片が消える。今回は小さな処置だ──そう自分に言い聞かせたが、すでに穴が口を開けている。

調合の最中、使った原料の一部が、私の手の内で灰色に変わっていくのも感じ取れた。スポイトに残る赤い保存因子が、ゆっくりと渋い黒に濁っていった。調合の代償の一つは、素材の一部が別物化して再利用できなくなること。私はそれを押し隠すようにして、処方を最後までやり遂げた。

パックをマルコの胸に当て、体を布で包んで温める。イレナが手際よく毛布を掛ける。セルヴァンは門の方に目を配ったまま、側面にあった小さな機械を動かして外気の流れを遮る。数分経つと、マルコの呼吸は少しずつ落ち着き、顔色に赤みが戻り始めた。私の右腕に走る冷たさを感じた。瘢痕が、一段と白く、縦に伸びた。

「……リリア。ありがとう」マルコの声はまだ震えていたが、明瞭だった。私は彼の頭を撫でる。撫でながら、私は自分が先ほど何を失ったのか、どうしても思い出せなかった。イレナの声が頭の中のどこかでゆっくり鳴るが、その言葉の調子が抜け落ちている。

「覚えているか、処方を書いたときの三項を」イレナが確認する。私は紙切れを探し、確かめる。書いた文字はそこにあり、私の手には確かな手順が残っている。記憶の断片は私の内部から消えたが、紙に書かれた指示は現場で機能する。知識は手順として外化されると強い。私はそれを再認識した。

マルコが眠りに落ちる間隙に、セルヴァンが作業台の上を素早く調べ始めた。彼の指は古いラベル、封蝋の砕片、そして小さな金属の板に止まった。板には、見覚えのある模様が刻まれている。あれだ──首輪の内側に刻まれていた印章と同じ、円と三つの短い線で構成された紋様。セルヴァンはそれを指先でなぞり、険しい顔をした。

「門守の印章だ。こんなところに――」彼は息を詰めた。門守。私が図書の記録で見た伝承の名だ。聖女を護り、彼女たちの痕跡を守るはずの古い組織。だが文献は途絶え、何世代も前の話のはずだった。首輪の刻印がそれと一致するということは、マルコがただの孤児ではない可能性を示す。

作業台の引き出しの中には、より具体的な証拠があった。封の切れた袋、ラベルに記された村の名前、そして薄い紙の束──分析結果の写しらしい。そこには、風枯れという病名と、それに伴う「痕跡」なる記述、そして日付と座標が並んでいる。手書きの小さな記録には、治療痕の「保存」や「転移」の詳細、さらに「抜粋:生命のしるし(残滓)」とだけ書かれた一文が見える。赤い小瓶のことを示すかのような断片だ。

「これは恵果院の研究と似ている。だが、公式文書ではない。下層の